プロダクトの体験とは何か
そもそも体験とは何なのでしょうか? プロダクトデザインにおける体験とは、プロダクトの使用前から使用後にいたるまでにユーザーが経験する、プロダクトの手触りや感覚、印象のことだと私は考えています。
手にいれたい情報を素早く見つけられた。気のきいた言葉づかいやビジュアルがあるため使っていて楽しい。煩雑だった作業が簡単に行えるようになった。使いかたを調べることなく思ったとおりに操作ができる。新しい考え方や価値観に触れられた。これらは優れたユーザー体験の一例です。
ユーザーにこれからも使い続けたいと思えてもらえたら、それは優れた体験を提供できているということです。
体験は連続的な行動から成り立っている
優れたユーザー体験を提供するために、プロダクトデザイナーができることは何でしょうか? それは、ユーザーが特定の目的を達成するために必要なタスクを把握し、それぞれのタスクを行っているときの感情を理解すること。そして、その感情をケアできるデザインを考案し、必要な機能や体験を漏れなく提供することです。
ここで押さえておきたいのは、機能それ自体だけでなく使用前から使用後にいたるまで、プロダクトがカバーする体験の範囲を広く捉えるという視点です。
例えばブログ記事の投稿機能を作っているとします。ユーザーにとって記事内容をブログシステムに投稿するというのがコアな体験なので、入力フォームと投稿ボタンがセットになった投稿機能は当然プロダクトに実装されると思います。ある意味ミニマムな実装です。
ここで視野を広げてユーザーの投稿体験をとらえてみると、本文執筆前の構想を練る行為や、公開後のシェアとその反応を確認するまでがユーザーにとっての投稿体験であることに気づきます。
プロダクトがカバーしている部分が入力フォームで投稿する部分だけであれば、構想を練る段階では別のプロダクトや紙のノートを使っているだろうと想像できます。公開後のシェアも手動作業でしょう。思うように読者からの反応を確認できていない可能性もあります。
それらをプロダクトに取り込んでしまうのです。コアな行動の前後まで体験をサポートすることができれば、ユーザー体験は一層優れたものになります。足りない機能を手動で補う必要がなくなったり、自分の行動に自信が持てるようになるからです。優れた体験を備えたプロダクトは、ユーザーが手元に置いておきたくなる存在になります。
優れた体験をデザインするためにできること
優れた体験をデザインするためにまずできることは、当然のことながら、自分がひとりの使い手となって、プロダクトを使い込み、ユーザーの理解を理解することです。ユーザーがプロダクトに触れた時に欲しいと思う情報は何なのか、どういう体験があったら嬉しくなるかをイメージしてみます。
ただ、一歩引いて客観的に物事を捉える必要があります。一歩間違えると「私が欲しいから必要なのだ」というロジックでデザインをしてしまいかねません。プロダクトはプロダクトデザイナーのものではありませんし、プロダクトの開発にすこしでも関わった時点で真のユーザーになることは難しいからです。
真のユーザーはプロダクトの内部事情や企画意図、細かな仕様などを知らずにプロダクトに触れています。デザイナーや開発者はプロダクトについて知りすぎています。なので、客観的になる必要があります。
次にできることは、具体的にユーザーのタスクを洗い出して、必要なデザインや体験を計画・設計することです。
ユーザーは特定の目的を達成するためにプロダクトに触れているため、ユーザーの目的を把握し、それを達成するにいたるまでのタスクを時系列でとらえる必要があります。もしフレームワークを用いるとすればカスタマージャーニーマップなどは役に立つかもしれませんね。そうしてタスクを洗い出せたら、そのタスクの達成に必要なデザインや体験を検討していきます。
広さと深さの話
体験を考える際、思い出してほしいのは、体験には広さと深さがあるということです。この記事では主に広さの話をしていますが、深さについても同様に気を配るべきです。広さは体験のカバー範囲、深さは体験のおもてなし具合です。
先程のブログの例で言うと、構想を練ったりシェアしたりという部分が広さです。記事を公開したあとは誰しも書いたこと自体を褒められたいですよね。自分が頑張った証(例えば執筆した文字数)を示してあげるとモチベーションの維持に効くかもしれません。
深さは、タスクを行っているまさにそのときの心地よさを指します。例えば記事を投稿するときに、文字数が表示されたり、自動保存されたり、記事の公開状態がちゃんとわかるといったものです。ユーザーのタスクは記事内容を書くことなので、それ以外の細かい気になりごとは振り払いたいわけです。手触りの良さと言ったりもしますね。
目的達成への近道を提供する
優れた体験をデザインするということは、究極的にはユーザーが本質的に集中すべきタスクに集中できるようにしてあげることです。また、それによって目的達成への近道を提供してあげることです。それらを心地よい体験でサポートするのです。
デザインとの関わりかたやデザイナーの仕事範囲の認識をすこし変えるだけでもプロダクトの体験をよくできると思うので、ぜひ取り入れていただけたらと思います。